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なぜ再生可能エネルギーが日本で普及しないのか

第5次エネルギー基本計画(平成30年7月)の矛盾について

再生可能エネルギーが日本で普及しないのはなぜか慶應義塾大学名誉教授の金子 勝先生のレポートを参考にして、公表されている事実を基に考えてみました。

昨年政府が発表した「第5次エネルギー基本計画」を見てみると、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを「主力電源」にすると言う一方、「可能な限り原発依存度を低減する」としながら原発は「重要なベースロード電源」とする。

となっている。

これは一体どのように解釈すれば良いのか矛盾を感じる。

事実、政府は原発を「可能な限り依存度を低減する」としながら、「重要なベースロード電源」と位置づけて再稼働を推進するとしている。

・基本計画が想定するように、2030年度の原発比率を20~22%とするなら、約30基も原発を稼働させなければならない。
・現在、新規制基準の下で再稼働したのは9基で、今後、17基(建設中の3基も含む)がそれに続くというが、現在ある原発を40年で廃炉することを前提とすれば、2030年に動かせるのは全部で18基(建設中を含めたとしても21基)である。

・それを考えると、結局、2030年時点で30基を動かすには、すべての原発を60年稼働することを前提にしなければならない。政府が福島第1原発事故を真剣に反省しているとは、とうてい思えない。

「可能な限り原発依存度を低減する」としながら、なぜ、多数の原発を動かすことを前提としなければいけないのか。「原子力村」の圧力が存在することは容易に想像できるが、そうしないと原発の存立根拠がなくなるからだ。

現状の原発コストの計算では、福島第1原発の事故処理・賠償費用は「社会的費用」としてコストに乗せられ、最終的には電力料金として一般国民が負担している。

動かす原発の基数が少ないと、発電コストに反映され、原発の発電コストが高くなってしまう。それでは原発が「安いエネルギー」でないことがばれてしまう。
他方で、福島第1原発の事故処理費用は、2016年12月9日に、経産省が11兆円から約22兆円に倍増したと発表している。原発の発電コストを低く見せるには、どうしても原発を多く動かさないといけないのだ。
では、基本計画で原発の新設を記述できなかったのはなぜか。もちろん、住民の反対が根強いことがあるが、それだけではない。
基本計画は、原発を「運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」と述べている。
原発のコストに関して「運転コスト」に限定し、記述されている。原発のコストは運転コストだけでは無い。

福島第1原発事故以降、原発の新設コストは、世界では少なくとも1基1兆円を上回るようになっているのに、これまで日本では同4400億円としてきた。いま や倍以上の差がある。
原発の新設を口にしたとたん、原発の発電コストが他のエネルギーより高いことが表面化してしまうからだ。
このことは、この間、経産省・資源エネルギー庁が進めてきた原発輸出がことごとく失敗している事実が物語っている。
世界で原発は「ベースロード電源」どころか過去のエネルギーになりつつある現実を認めたくないからだ。

原発コストの不都合な真実

これまで使用済み核燃料を再処理しリサイクルする核燃料政策は事実上、破綻し、再処理はイギリス・フランスに依存してきた。そのため、日本が国内外に抱えるプルトニウムの量は原爆6000発分の約47トンに増えてしまった。

ところが、基本計画は「保有量の削減に取り組む」とし、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する核燃料サイクルを「推進」する方針を継続した。

不都合な事実

問題はプルトニウムの量だけではない。核燃料サイクル政策には膨大な税金や電気料金がつぎ込まれてきた。それは公表されている原発コストに含まれていない(原子力村への交付金も原発コストに含まれていない)。

高速増殖炉「もんじゅ」はこれまで1兆円以上を費やしたにもかかわらず、2度の事故を起こしたあげく、稼働しないまま2016年末に廃炉が決定した。廃炉費用にさらに1兆円かかる。
六ケ所再処理工場は、1989年の建設申請時に7600億円だった建設費が2.9兆円に膨らんだにもかかわらず、いまだに稼働していない。その間にも人件費や維持費3兆円近くを使っている。
核燃料サイクル政策をやめれば、もんじゅと六ケ所再処理工場で使ってきた8兆円近い無駄遣いが露呈する。
さらに、使用済み核燃料は、電力会社にとって、「原料」となる「資産」ではなく、膨大な費用のかかる「不良負債」になり、原発は超高コストなエネルギーであることが露見する。

原発が「安い」「ベースロード電源」といううそは明白である。

日本での再エネの普及を妨げる壁

日本以外での再生可能エネルギーの現実

・アメリカ
米国エネルギー省によれば、2013年末に太陽光の発電コストが11.2米セント/kWhになり、米国の電力料金の平均価格12米セント/kWhを下回った。

・サウジアラビア
2017年10月に発表された、サウジアラビアの北部サカーカに建設予定の300MW太陽光発電所の8件の入札結果では、2~3円/kWhという驚異的な価格低下が起きている。

・発電能力だけを見れば、世界では2015年末に風力発電が原子力を上回った。

このような現実を目にしても、未だに経産省は、再エネは高いと言い普及に力を入れていない。
再生可能エネルギーを中心とした小規模分散型エネルギーの時代は、大手電力会社の独占的既得権を脅かすため、大手電力会社は必死な悪あがきをしている。

政府は30年度の電源構成に占める比率を「2224%」にする目標を掲げているが、ドイツは2030年に50%以上、フランスは2030年に40%、スペインは2020年に40%、イギリスは2020年に31%にする目標を掲げている。諸外国に比べて、日本の目標は著しく低い。

しかも日本の場合、目標に掲げる「2224%」再エネの比率の半分の約8.89.2%はすでに存在する一般水力発電が含まれている。(実際は13~15%の目標であり、太陽光は7%、風力は1.7%、バイオマスは3.7~4.6%の比率にすぎないのだ。数字にだまされてはいけない)
完全に、日本は世界のエネルギー転換とは無縁の政策を行っていると全世界に公表しているのと同じである。

原発優先の電力会社

基本計画では、再エネが普及しない原因を

・海外に比べ発電コストの高止まりや系統制約等の課題がある
・天候次第という問題上火力・揚水等を用いて調整が必要

という理由を挙げている
再エネが、なぜ海外と比べてコストが高いのかは、経産省と電力会社が原発にこだわり、再エネの普及に本腰を入れていないため、ミクロ経済学で言う「規模の経済」の原理が働かないためである。

さらに、基本計画にもある「系統制約等の課題」については
再エネの発電量が増えても電気を需要家まで届けるには、送配電網の能力が伴わないと、普及しようがない。
日本では、大手電力会社が基幹送電線の空き容量がないことを理由に、再エネの発電事業者の接続を拒否する事例が相次いでいる。また再エネ事業者に法外な「送電線の工事負担金」を要求する事例も多い。それが再エネの普及を妨げているのである。
本当に基幹送電線に「空き容量」はないのだろうか
京都大学大学院経済学研究科特任教授の安田陽氏と山家公雄氏の試算では、基幹送電線の利用率は19.4%と20%未満であり、10%未満のものもあることが明らかにされている。
また、電気事業連合会の勝野哲会長は2017年11月の会見で、送電線に余裕があるのに再エネが接続できない状況を指摘されると、「原子力はベースロード(基幹)電源として優先して活用する」と言っている。
要するに空きがあっても使わせないということだ。

結論

結論として再エネの普及を妨げている原因は大手電力会社の既得権を必死で守る姿勢と、原発の再稼働優先につきる。

参考資料(公益財団法人自然エネルギー財団 統計引用)

世界の電力

発電電力量の推移(電源別、1985年~2018年)更新日:2019年6月12日

2018年の電源構成(%)更新日:2019年6月12日

国別の電力

2018年の電源構成:世界15カ国 更新日:2019年9月19日

 

  アジア アメリカ大陸
中国 インド 日本 カナダ チリ 米国
石炭 67 75 31 8 36 28
石油 0 1 5 1 2 1
ガス 3 5 35 10 16 34
原子力 4 3 6 15 0 19
自然エネルギー 26 17 18 65 47 17
その他 0 0 4 0 0 1
合計 100 100 100 100 100 100

 

  ヨーロッパ
デンマ
ーク
フランス ドイツ アイル
ランド
イタリア ポルト
ガル
スペイン スウェ
ーデン
イギリス
石炭 21 2 37 14 11 20 14 1 5
石油 1 1 1 0 4 2 5 0 1
ガス 6 5 13 52 45 26 21 0 39
原子力 0 71 12 0 0 0 20 41 19
自然エネルギー 69 19 35 32 39 50 38 56 33
その他 2 1 2 2 2 2 1 1 2
合計 100 100 100 100 100 100 100 100 100

単位:%

2018年の電力消費量に占める自然エネルギーの割合 更新日:2019年9月19日

    • 注:各国の電力消費量=[国内の発電電力量]+[他国からの輸入量]―[他国への輸出量]。
      中国とインドは電力消費量ではなく発電電力量で算出(両国とも電力の輸出入量は微小。
    • 出典:中国とインドのデータはBP、Statistical Review of World Energy 2019 (2019年6月)、その他の国は 国際エネルギー機関(International Energy Agency)、Electricity Information 2019 (2019年9月) 、Renewables Information 2019 (2019年8月)より。

上記の各グラフにおけるデータは総発電電力量に基づく。